はじめに:妊娠・授乳期の紫外線対策の重要性
妊娠中や授乳中は、ホルモンバランスの変化により肌が敏感になり、紫外線による影響を受けやすくなります。特に、妊娠中はメラニン生成が促進され、シミやそばかすができやすくなるため、紫外線対策は非常に重要です。しかし、妊娠・授乳期には使用できるスキンケア製品が制限されることもあり、適切な紫外線対策を選ぶことが求められます。
飲む日焼け止めとは?
飲む日焼け止めは、紫外線から肌を守ることを目的としたサプリメントで、主に抗酸化作用のある成分を含んでいます。代表的な成分には以下のようなものがあります。
- ポリポディウム・レウコトモス(Polypodium leucotomos):シダ植物由来のエキスで、抗酸化作用や抗炎症作用が報告されています。
- アスタキサンチン:強力な抗酸化作用を持つカロテノイドで、紫外線による肌のダメージを軽減する可能性があります。
- リコピン:トマトなどに含まれるカロテノイドで、紫外線による皮膚の赤みを抑える効果が示唆されています。
これらの成分は、紫外線による活性酸素の発生を抑制し、肌のダメージを軽減することが期待されています。
飲む日焼け止めの効果に関する研究
飲む日焼け止めの効果については、いくつかの研究が行われています。例えば、ポリポディウム・レウコトモスの摂取が紫外線による皮膚の赤みや細胞損傷を軽減する可能性が示されています。
ただし、これらの研究は小規模であり、結果の再現性や長期的な安全性についてはさらなる研究が必要とされています。また、飲む日焼け止めはあくまで補助的な手段であり、従来の外用日焼け止めの代替とはなりません。
妊娠中・授乳中の飲む日焼け止めの安全性

妊娠中や授乳中における飲む日焼け止めの使用については、以下の点に注意が必要です。
- 成分の安全性:ポリポディウム・レウコトモスやアスタキサンチンなどの成分について、妊娠中や授乳中の安全性に関する十分なデータは存在しません。
- サプリメントの規制:飲む日焼け止めはサプリメントとして販売されており、医薬品のような厳格な規制がないため、成分の含有量や品質にばらつきがある可能性があります。
- 医師への相談:妊娠中や授乳中に新たなサプリメントを摂取する前には、必ず医師に相談することが重要です。
妊娠中・授乳中の紫外線対策の推奨方法
妊娠中や授乳中の紫外線対策として、以下の方法が推奨されます。
- 物理的遮蔽:帽子や長袖の衣服、日傘などを使用して、直接的な日光を避ける。
- 外用日焼け止めの使用:酸化亜鉛や酸化チタンなどの鉱物系成分を含む日焼け止めは、肌への刺激が少なく、妊娠中や授乳中でも比較的安全とされています。
- 日中の外出を控える:紫外線が最も強い10時から14時の間は、外出を控えることが望ましいです。
飲む日焼け止め成分は母体を通じて胎児・乳児に影響するのか?
妊娠中や授乳中のサプリメント摂取において最大の懸念点の一つが、「その成分が胎盤や母乳を通して赤ちゃんに届く可能性があるかどうか」です。飲む日焼け止めもサプリメントの一種である以上、この観点からの検討は不可欠です。
胎盤通過性のある成分とは?
妊娠中、母体が摂取した物質の一部は胎盤を通じて胎児に移行することが知られています。たとえば、アルコールやニコチン、特定の医薬品などがその代表例です。これと同様に、飲む日焼け止めに含まれる一部の成分も、その分子量や脂溶性によっては胎盤を通過する可能性が否定できません。
特に注意すべきなのが、抗酸化成分の一つであるアスタキサンチンやリコピンなどの脂溶性カロテノイド類です。これらは脂質と結合して体内に吸収されやすく、また体内に一定期間蓄積される性質を持ちます。これにより、血液中濃度が一定のレベルを超えると、胎児の発育に予期せぬ影響を及ぼす可能性があると考えられます。
実際、アスタキサンチンに関しては動物実験レベルで「大量摂取時における胎児への毒性リスクが完全に排除できない」とする論文も存在しています(参考:PMID: 24363749)。
授乳期における母乳移行のリスク

授乳中の飲む日焼け止め使用についても慎重な対応が求められます。母乳を通して乳児に栄養だけでなく微量成分も移行するため、母体が摂取する物質の選定には注意が必要です。
母乳移行性の観点からは、以下のような点が注目されています。
- 分子量が小さい
- 脂溶性が高い
- 血中濃度が高く持続する
- プロテイン結合率が低い
飲む日焼け止めに含まれるポリフェノール類やカロテノイド類の中には、上記の特性に該当するものもあります。特に脂溶性で体内に長く留まりやすい成分は、母乳に分泌されるリスクがあるとされており、厚生労働省や「MotherToBaby(https://mothertobaby.org/)」などの機関も、授乳期に新たなサプリメントを導入する際は必ず専門家の判断を仰ぐべきとしています。
また、飲む日焼け止めに配合されていることがあるビタミンA(レチノール)誘導体には注意が必要です。ビタミンAの過剰摂取は胎児奇形のリスクを高めるとの研究報告があり(例:Teratology. 1995;51(1):53-5)、サプリメントとしての摂取は医師の厳重な監視下で行うべきです。
サプリメント市場の規制緩さと成分のバラつき
日本国内ではサプリメントは食品として扱われており、医薬品のような厳しい成分管理や臨床試験義務は課されていません。つまり、同じ「飲む日焼け止め」という商品名であっても、製造元ごとに成分や含有量に大きなばらつきがあるのが現状です。
特に、国内外の製品をインターネット経由で入手するケースでは、成分表示が不十分だったり、輸入規制対象の化学物質が含まれていることも少なくありません。これが妊娠中・授乳中の母体と胎児・乳児にとってどのような影響を与えるか、科学的に十分解明されていない製品も数多く存在します。
したがって、一般的な成人女性が自己判断で摂取する場合と、妊婦や授乳中の母親が摂取する場合では、リスク評価の水準をまったく異なる次元で設定する必要があるのです。
海外ガイドラインにおける扱い

米国やオーストラリア、カナダなどの医療機関やガイドラインにおいても、妊娠・授乳期における飲む日焼け止め成分の摂取に対する明確な安全基準は存在していません。
- MotherToBaby(米国):妊娠中の抗酸化サプリメントに関しては「十分な臨床データがないため、摂取は医師と相談すること」と記載。
- NHS(英国国民保健サービス):日焼け止めに含まれるビタミンA誘導体は妊娠中に避けるよう注意喚起。
- Therapeutic Goods Administration (TGA, オーストラリア):ビタミンサプリメントの使用には妊娠カテゴリー分類(例:A, B, C, D)があり、摂取前に妊娠分類を確認するように促している。
このように、世界的にも飲む日焼け止めの安全性についてのエビデンスは不足しており、予防的見地から「避けること」が推奨されるケースが多く見られます。
抗酸化成分とエピジェネティクス:次世代への影響は?
サプリメントに含まれる抗酸化成分が母体にとって有益である一方で、その摂取が胎児や乳児の**遺伝子発現=エピジェネティクス(後成的修飾)**に及ぼす可能性が注目されつつあります。とくに妊娠中や授乳中は、胎児・乳児の発育に関わるエピジェネティックな変化が集中して起きる時期であり、外的因子の影響を受けやすいとされています。
エピジェネティクスとは何か?
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列そのものを変えることなく、遺伝子の「オン・オフ」や発現量を調整する仕組みです。DNAメチル化、ヒストン修飾、非コードRNAの働きなどが含まれます。この調節は、胎児の発育や器官形成、免疫系の構築、さらには将来の疾病リスクにまで関わることが知られています。
妊娠中の栄養や環境因子が胎児のエピジェネティック状態に影響を及ぼすという概念は、「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」仮説として国際的に注目されており、サプリメント摂取の影響もこの観点から再評価が始まっています。
抗酸化物質はエピジェネティック制御に作用するか?

飲む日焼け止めに含まれるアスタキサンチン、リコピン、ポリフェノール類、ビタミンC・Eなどの抗酸化物質は、酸化ストレスの軽減や細胞保護に役立つとされていますが、それらの一部にはDNAメチル化パターンに影響を与える可能性があることが近年の研究で示唆されています。
たとえば:
- リコピンは、ラットを用いた研究において、肝臓細胞のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の発現に変化をもたらし、抗腫瘍作用と関連するエピジェネティック修飾に関与する可能性が報告されています(参考:PMID: 26982842)。
- アスタキサンチンに関しては、マウス胎児への抗酸化効果の報告がある一方で、妊娠初期の特定遺伝子発現を抑制または促進する可能性が示された研究もあります(参考:PMC: 6642471)。
こうした成分が母体の摂取を通じて胎児のエピジェネティクスに影響する場合、それは将来的な代謝リスク、アレルギー疾患、免疫系の調節などに関わる可能性を孕んでいます。
胎児の健康に与える長期的リスク:過剰な「善玉成分」への注意
抗酸化物質は体内でフリーラジカルを除去し、細胞ダメージを軽減する働きがあるため、「多ければ多いほど良い」という誤解を生みがちです。しかし、抗酸化成分は摂取量やタイミングによっては、逆に胎児の正常な細胞分化や発達プロセスを妨げる可能性があります。
発育中の細胞は、ある程度の酸化的ストレスを必要とする場面もあり、それが信号伝達やアポトーシス、免疫の初期形成に関与するという報告も存在します(例:PMID: 21576758)。そのため、抗酸化物質による過度なフリーラジカル除去が、発育段階の重要なプロセスを阻害する可能性は無視できません。
妊娠中・授乳中に「遺伝子レベルで安全」とされるか?

現在のところ、飲む日焼け止めに含まれる主要成分が胎児や乳児のエピジェネティクスに悪影響を及ぼすという明確なエビデンスは得られていません。しかし、前述したように、これは「安全が証明された」ことを意味するのではなく、「リスクが評価されていない段階」にあるというのが実情です。
特に、エピジェネティックな変化は出生後すぐに症状として現れないことも多く、影響が表面化するのは思春期や成人以降である可能性もあります。そのため、妊娠・授乳期におけるサプリメントの導入には、即時的な影響だけでなく将来的なリスクに目を向けることが必要です。
医療従事者との連携の重要性
飲む日焼け止めに限らず、妊娠中・授乳中におけるサプリメントの摂取判断は、個人の体質や既往歴、現在の栄養状態に基づいて総合的に判断すべきです。近年では、産婦人科医や遺伝カウンセラー、管理栄養士が連携し、妊婦に対して栄養面からの遺伝子リスク評価を行う取り組みも増えています。
とくに、家族性の代謝異常や特定遺伝子多型(SNP)によって、抗酸化物質の代謝能力に違いがあることが明らかになっており、パーソナライズド・サプリメントの必要性が議論されています。妊婦や授乳婦がサプリメントを自己判断で選ぶのではなく、遺伝子情報を踏まえた医療のサポートを受けることで、安全かつ効果的な栄養管理が可能になると期待されています。
飲む日焼け止めの法規制は国によって異なる:妊娠中の安全性に直結する課題
飲む日焼け止めは世界中で注目されつつある紫外線対策の一手段ですが、その法的位置づけや安全性評価の厳格さには国ごとに大きな違いがあります。特に妊娠中・授乳中の使用可否を判断する上では、その国の規制体系・成分評価指針を理解しておくことが重要です。
ここでは、主に日本、アメリカ、ヨーロッパ(EU)、オーストラリアを対象に、飲む日焼け止めに関連する法規制と安全性に関する取り扱いの違いを見ていきます。
日本:食品扱いであるがゆえの「盲点」

日本国内では、飲む日焼け止めに代表されるサプリメント製品は「食品」として分類されています。そのため、医薬品のような厳格な臨床試験や厚生労働省による事前承認は必要なく、製造業者の自主的な安全管理に任されている部分が大きいのが実情です。
妊娠中・授乳中の使用についても、製品のパッケージに「妊娠中の方は医師に相談のうえご使用ください」といった注意喚起が記載されるにとどまっており、科学的エビデンスや具体的な基準は存在しません。
また、「トクホ(特定保健用食品)」や「機能性表示食品」であっても、胎児・乳児に対する影響までは審査されていないことがほとんどであり、実際の安全性は利用者自身の判断と医師の裁量に委ねられている状況です。
アメリカ:FDA未承認のカテゴリが多数
アメリカでは、サプリメントはFDA(食品医薬品局)の管理下にありますが、医薬品とは異なり、事前に「効果」や「安全性」をFDAが承認することは基本的にありません。そのため、飲む日焼け止めに該当する製品群も、成分に違法性がない限り、自由に販売が可能です。
ただし、妊娠中・授乳中の女性を対象としたサプリメントについては、以下のような指針が存在します:
- **「Dietary Supplement Labeling Guide」**では、妊婦が摂取する際の成分表示とリスク開示の記載を強く推奨。
- **「Pregnancy and Lactation Labeling Rule (PLLR)」**では、医薬品については胎児・母乳移行のリスクを分類し、ラベルへの記載を義務化している。
しかしながら、飲む日焼け止めのように「医薬品とサプリメントの中間」にある製品はこのルールの網から漏れている場合が多く、妊婦がリスクを過小評価しやすい設計になっているとする専門家の指摘もあります。
EU:成分単位での安全評価が進むも、妊娠中の基準は未整備

EU諸国では、サプリメントに含まれる成分がEFSA(欧州食品安全機関)によって詳細に評価されています。リコピンやアスタキサンチンなどのカロテノイド類も対象となっており、特に以下の点が重視されています:
- 毎日の最大許容量(Tolerable Upper Intake Level)
- 長期摂取による慢性毒性の有無
- 胎児・乳児の成長に対する毒性影響
たとえば、アスタキサンチンについてはEFSAが「最大摂取量を8 mg/日まで」とする見解を出しています(出典:EFSA Journal 2014;12(7):3757)。しかし、妊娠中の摂取に特化したリスク分類は存在せず、製品ごとに医師の判断が必要とされます。
また、EUでは**「ナチュラル」や「オーガニック」表示に関する規制は厳格ですが、それが安全性を保証するわけではない**ため、自然由来成分であっても妊娠中の使用には慎重になる必要があります。
オーストラリア:薬品に準じた「妊娠カテゴリー制度」
オーストラリアは、TGA(Therapeutic Goods Administration)がサプリメントの規制を担当しています。同国では、ビタミンやミネラル、抗酸化物質を含む製品についても、医薬品に準じた分類制度が導入されています。特に重要なのが、「妊娠カテゴリー制度(Pregnancy Category)」です。
この制度では、胎児に対する既知のリスクに基づいて以下のような分類がなされます:
- カテゴリA:多数の妊婦で使用され、胎児に異常の増加がないとされる。
- カテゴリB1~B3:動物実験データに差があり、人体での十分なデータが存在しない。
- カテゴリC:胎児に有害作用の可能性あり。利益がリスクを上回ると判断される場合のみ使用可。
- カテゴリD・X:明確に胎児への害が確認されており、原則使用不可。
このような制度があることで、妊婦や医療従事者が成分単位でリスクを可視化しやすく、安全な選択がしやすいという利点があります。ただし、飲む日焼け止め成分の多くはまだこれらの分類がなされておらず、「情報不足」による予防的回避が基本方針となっています。
規制の違いが生む「安全意識のギャップ」

上記のように、国や地域によって飲む日焼け止めの規制は大きく異なります。その結果、同じ製品がある国では「妊娠中も安全」として売られ、別の国では「避けるべき」とされる状況が生まれており、消費者にとっては非常に混乱を招きやすい状態となっています。
特に、日本やアジア圏では「海外製=高機能・高品質」といった印象が根強い一方で、その成分評価や規制の実態を知らずに購入・摂取してしまうリスクが高まっています。妊娠中・授乳中に関しては、見た目のパッケージやブランドイメージではなく、成分の科学的エビデンスと規制情報を軸に判断することが極めて重要です。
遺伝子型によって異なる?飲む日焼け止めの代謝と妊娠中リスク
サプリメントが体内でどのように吸収・代謝されるかは、すべての人で同じではありません。実際、飲む日焼け止めに含まれる抗酸化成分や植物由来成分の代謝速度は、個々の遺伝子型によって大きく異なることが近年の研究で明らかになっています。
たとえば、肝臓の代謝酵素「CYP1A2」「CYP3A4」などの遺伝的多型によって、ある成分をすばやく分解できる人と、長く体内に残る人が存在します。妊娠中はホルモン環境も相まって代謝酵素の活性が変動するため、サプリメントの影響が予想外に強く出るケースもあり得ます。
また、抗酸化成分の体内利用効率を左右する遺伝子(例:SOD2、GPX1など)にも個人差があり、「同じ量を摂取しても、抗酸化の効き方が異なる」可能性も否定できません。これにより、一部の妊婦では効果が出にくいだけでなく、逆に代謝しきれずに過剰蓄積し、胎児の発達に影響を与えるリスクも考えられます。
こうした背景から、近年では「妊娠中のサプリメント利用はパーソナライズド医療の視点から慎重に評価すべき」とする声も高まっています。とくに、遺伝子検査による代謝リスクの可視化や、個別栄養指導を受けながらの使用が推奨されつつあります。
妊娠中の免疫調整と抗酸化成分の関係性
妊娠中は胎児を異物と認識しないよう、母体の免疫バランスが「Th1優位」から「Th2優位」へとシフトします。この免疫変化は感染症リスクを上げる一方で、自己免疫疾患を一時的に緩和することがあります。飲む日焼け止めに含まれる抗酸化成分には、免疫系に作用するものもあり、この微妙なバランスを乱す可能性があります。とくに、ポリフェノール類やアスタキサンチンなどは、細胞性免疫を刺激または抑制する報告があり、妊娠中の摂取は慎重な判断が必要です。
まとめ
妊娠中・授乳中はホルモンバランスの影響で肌が敏感になり、紫外線によるダメージを受けやすくなるため、適切な対策が不可欠です。その一方で、飲む日焼け止めに含まれる抗酸化成分や植物由来成分の安全性は、妊娠期・授乳期において十分に確立されているとはいえません。成分の胎盤通過や母乳への移行、遺伝子型による代謝の個人差、さらにはエピジェネティクスへの影響など、母体や胎児・乳児への潜在的なリスクが指摘されています。さらに、国ごとに飲む日焼け止めの規制や評価の基準が大きく異なることから、製品の選定にも慎重さが求められます。特に妊娠中においては、自己判断ではなく、医師や専門家と相談した上で使用を検討することが安全への第一歩といえるでしょう。