ローズマリーとグレープフルーツの経口摂取による紫外線ダメージ予防と肌老化対策:科学的知見とやさしい解説
Ⅰ.紫外線による肌老化(光老化)とは?
肌の老化には、大きく分けて「内因性老化(intrinsic aging)」と「外因性老化(extrinsic aging)」の2種類があります。 内因性老化は年齢とともに自然に進むものですが、外因性老化の主な原因は、太陽の光に含まれる紫外線(ultraviolet radiation:UV)です。
紫外線には以下の2つのタイプがあり、それぞれ肌に異なるダメージを与えます:
- UVB(波長280〜320ナノメートル):エネルギーが強く、肌の表面である「表皮(epidermis)」に届き、日焼け(紅斑:こうはん)やDNAの直接的な損傷、メラニン生成(色素沈着)を引き起こします。
- UVA(波長320〜400ナノメートル):より深く「真皮(dermis)」まで浸透し、コラーゲンやエラスチンといった肌の弾力構造を分解してしまい、シワやたるみの原因となります。
このように、繰り返される紫外線の影響によって生じる肌の変化を「光老化(photoaging)」と呼びます。 光老化が進むと、シミ、くすみ、乾燥、毛穴の開き、小ジワなどの目に見える変化が現れます。
Ⅱ.光老化のしくみ:活性酸素と炎症の連鎖
紫外線を浴びると、体内で「活性酸素(Reactive Oxygen Species:ROS)」という非常に反応性の高い物質が多量に発生します。 これらは本来、体内でも自然に生成されるものですが、過剰になると肌の細胞やDNA、脂質、タンパク質を攻撃して傷つけてしまいます。この状態を「酸化ストレス(oxidative stress)」と呼びます。
さらに、活性酸素は肌の細胞内の信号伝達経路(シグナル伝達)も刺激します。代表的なものに:
- AP-1(Activator Protein-1):コラーゲン分解酵素を作らせるスイッチ
- NF-κB(Nuclear Factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells):炎症や老化に関わる遺伝子を活性化するスイッチ
これらが活性化されると、MMP(マトリックスメタロプロテイナーゼ)という酵素群が増加します。MMPはコラーゲンやエラスチンを分解する働きがあり、肌のハリや弾力が低下し、シワやたるみの原因になります。
私たちの体には元々、抗酸化酵素(antioxidant enzymes)と呼ばれる防御機構があります。例えば:
- カタラーゼ(catalase)
- グルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)
- スーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase)
しかし、これらは過度な紫外線や長期の暴露では追いつかないこともあり、外から補助する抗酸化物質(特に食事やサプリメントから摂る植物由来成分)の活用が注目されています。
Ⅲ.ローズマリーとグレープフルーツ:天然の抗酸化成分
近年、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)とグレープフルーツ(Citrus paradisi)に含まれる植物由来成分(ポリフェノール)が、紫外線による肌ダメージから体の内側から肌を守る「経口光防御(oral photoprotection)」として注目されています。
主な有効成分:
- ローズマリー由来:
- ロスマリン酸(rosmarinic acid):強い抗酸化・抗炎症・DNA保護作用があります。
- カルノシン酸(carnosic acid)、カルノソール(carnosol):脂溶性で、細胞膜を守りながら炎症を抑えます。
- グレープフルーツ由来:
- ナリンゲニン(naringenin)、没食子酸(gallic acid):フラボノイドやフェノール酸として知られ、抗酸化・抗炎症作用を持ちます。
これらをバランス良く組み合わせた製品(例:NutroxSun®)は、研究で「単体よりも優れた効果(相乗効果)」を発揮することが確認されています。
パートⅡ.科学的根拠に基づく効果と仕組み
Ⅳ.実験室での評価:細胞モデル(in vitro試験)
研究者たちは、人間の皮膚細胞をモデル化したHaCaT細胞(ヒト表皮角化細胞株)を用いて、ローズマリーとグレープフルーツの抽出物の紫外線(特にUVB)に対する保護効果を詳しく検証しました。
1. 紫外線からの細胞保護作用
- 100 µg/mLの濃度で、グレープフルーツ単体では最大50%の細胞生存率上昇
- ローズマリー単体では30%の上昇
- 両方を組み合わせた場合は、最大70%の生存率が確認されました
これは、2つの抽出物を組み合わせることで得られる相乗効果(synergistic effect)であると考えられます。
2. 活性酸素(ROS)の抑制
UVBによって細胞内のROSが急増することが知られていますが、この混合抽出物は、ROSを42〜71%低下させました。評価には、H₂DCFDA蛍光色素を用いた測定法が使われました。
3. DNA損傷の軽減
コメットアッセイを用いて、紫外線によるDNAの切断を調べた結果、混合抽出物により26%の損傷軽減が確認されました。非照射状態では遺伝子毒性も見られず、安全性が裏付けられています。
4. 放射線による染色体損傷の抑制
- X線照射前に投与:小核形成が39%減少
- X線照射後に投与:小核形成が32%減少
ローズマリーの脂溶性ジテルペン類が細胞膜の脂質酸化を防ぐことが要因と推定されています。
Ⅴ.ヒトにおける臨床試験
スペインで行われた臨床試験では、健康な成人10名を対象に、NutroxSun®(ローズマリーとグレープフルーツの抽出物250 mg)を12週間毎日摂取し、肌の紫外線に対する感受性を評価しました。
測定方法:
最小紅斑量(Minimal Erythema Dose:MED)を使用。これは、目に見える赤みを引き起こす最小紫外線量で、数値が高いほど肌が紫外線に強いことを示します。
結果:
- 4週間後:大きな変化なし
- 8週間後:MEDが34%増加(p < 0.05)
- 12週間後:MEDが56%増加(p < 0.01)
このことから、時間経過とともに有効成分が体内に蓄積し、ターンオーバーと連動して効果が発現すると考えられます。
Ⅵ.肌の見た目にも効果:シワ・弾力・脂質酸化の改善
別の臨床試験では、90名の参加者が100mgまたは250mg/日の抽出物を8週間摂取し、肌の質感や外見の改善を評価しました。
1. シワの深さ
PRIMOS 3Dによる測定で、いずれの群でも有意にシワの深さが減少しました。
2. 肌の弾力
Cutometer®による測定で:
- 100mg群:最大4.6%の弾力改善
- 250mg群:3.7%の改善
3. 肌脂質の酸化抑制
Corneofix®法で角質を採取し、MDA量(酸化指標)を測定。照射後でも:
- 9.7〜20.1%のMDA低下が確認されました。
Ⅶ.どのように効果を発揮しているのか:作用機序
- 抗酸化作用:ROSを無害化し、DNA・タンパク質・細胞膜を守る
- 抗炎症作用:IL-1β, TNF-α, COX-2 などの炎症物質の抑制
- MMPsの抑制:MMP-1, -3, -9によるコラーゲン分解を抑える
- シグナル経路阻害:STAT3, NF-κB, MEK/ERK, AP-1などを抑制
- Nrf2活性化:抗酸化遺伝子の発現促進
Ⅷ.安全性と注意点
これまでの研究では、ローズマリーとグレープフルーツ抽出物は、100〜250 mg/日の範囲で副作用の報告はありませんでした。
ただし、以下の点に注意が必要です:
- ローズマリー:
- 高用量・長期摂取では、動物実験で生殖毒性(精子数やテストステロンの減少)が報告されています。
- 一部で接触性皮膚炎やアレルギー反応もあります。
- グレープフルーツ:
- 一部の薬(特に肝臓の酵素CYP450で代謝される薬剤)と相互作用を起こす可能性があります。
- 薬を服用中の方は、医師に相談するのが望ましいです。
Ⅸ.まとめ:内側からの肌ケアという新しい選択肢
このローズマリーとグレープフルーツの組み合わせは、以下のような全身的な肌保護に役立つことが、多角的な研究によって明らかになっています:
- 紫外線による赤み、DNA損傷、シワ、弾力低下を軽減
- 抗酸化・抗炎症・細胞保護のメカニズムが明確
- 長期的に摂取することで、日焼け止めを補完する“内側からの紫外線対策”として有効
- 一般の方にも、専門家にも理解・活用されうるナチュラルで安全なアプローチ
今後さらに大規模かつ長期の臨床試験が求められますが、すでに臨床的にも、機能的にもその価値が認められつつある、有望な「インナーケア」成分と言えるでしょう。
参考文献
- Pérez-Sánchez, A., et al. 『Protective Effects of Citrus and Rosemary Extracts on UV-Induced Damage in Skin Cell Model and Human Volunteers』. Journal of Photochemistry and Photobiology B: Biology, vol. 136, 2014, pp. 12–18. https://doi.org/10.1016/j.jphotobiol.2014.04.007
- Marcílio Cândido, T., et al. 『Dietary Supplements and the Skin: Focus on Photoprotection and Antioxidant Activity—A Review』. Nutrients, vol. 14, no. 6, 2022, p. 1248. https://doi.org/10.3390/nu14061248
- Searle, T., et al. 『Systemic Photoprotection in 2021』. Clinical and Experimental Dermatology, vol. 46, no. 7, 2021, pp. 1189–1204. https://doi.org/10.1111/ced.14697
- Pérez-Sánchez, A., et al. 『Nutraceuticals for Skin Care: A Comprehensive Review of Human Clinical Studies』. Nutrients, vol. 10, no. 4, 2018, p. 403. https://doi.org/10.3390/nu10040403
- Ghasemzadeh Rahbardar, M., & Hosseinzadeh, H. 『Toxicity and Safety of Rosemary (Rosmarinus officinalis): A Comprehensive Review』. Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology, vol. 398, 2025, pp. 9–23. https://doi.org/10.1007/s00210-024-03336-9
- Li Pomi, F., et al. 『Rosmarinus Officinalis and Skin: Antioxidant Activity and Possible Therapeutical Role in Cutaneous Diseases』. Antioxidants, vol. 12, no. 3, 2023, p. 680. https://doi.org/10.3390/antiox12030680
- Cavinato, M., et al. 『Plant Extracts and Natural Compounds Used Against UVB-Induced Photoaging』. Biogerontology, vol. 18, 2017, pp. 499–516. https://doi.org/10.1007/s10522-017-9715-7